財産分与請求権に関して、離婚原因を作った有責配偶者も財産分与は請求できるのか、内縁関係を解消したときに財産分与は請求できるのか、財産分与請求権は相続できるのかという論点について解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
有責配偶者による財産分与請求の可否
有責配偶者とは離婚原因を作った配偶者のことをいいます。例えば、離婚の原因が不倫であるような場合、不倫をした配偶者が有責配偶者となります。有責配偶者は、自らが離婚の原因を作ったにもかかわらず財産分与を請求できるのかが問題となります。
この点については、財産分与請求権の内容である清算的要素、扶養的要素、慰謝料的要素ごとに考えることになりますが、結論としては有責配偶者であっても一定の財産分与を請求することはできます。
まず財産分与の扶養的要素・慰謝料的要素については、有責配偶者は請求することができないと考えるのが一般的です。これに対し、財産分与の清算的要素については有責配偶者でも請求することが可能です。
例えば、東京高裁平成3年7月16日判決は、「夫婦財産の清算的な性格を有する財産分与は有責配偶者であっても」請求し得ると判示しており、有責配偶者による清算的財産分与の請求を認めています。
内縁配偶者による財産分与請求の可否
内縁関係の性質と財産分与
内縁関係とは、婚姻届を出していないため法律上の夫婦とは認められないものの、婚姻意思に基づいた共同生活を送っており夫婦としての実質がある場合をいいます。最高裁昭和33年4月11日は、内縁関係の性質について「婚姻に準ずる関係というを妨げない」と判示しています。内縁関係は婚姻関係に準じた性質であることから、財産分与の規定についても準用されると考えられており、内縁関係が解消した場合には内縁配偶者は財産分与を請求できることになります。
なお、内縁関係がどのような場合に認められるか等については下記記事も参考にしてください。
(参考)【保存版】内縁関係について知っておくべき全法律知識 19項目
死亡により内縁関係が解消された場合の財産分与請求権
婚姻関係が解消される場合には、離婚によるときだけでなく、配偶者の死亡によるときもあります。そして、民法は、離婚により婚姻関係が解消された場合には財産分与の規定により、配偶者の死亡により婚姻関係が解消された場合には相続の規定により問題を解決することとしています。
そして、内縁関係については、婚姻・離婚に関する規定は準用される一方で、相続に関する規定は準用されないと考えられています。そのため、内縁配偶者の一方が死亡したことにより内縁関係が解消された場合、もう一方の内縁配偶者に相続権はなく財産関係の清算を受けることができないことになります。
最高裁平成12年3月10日決定は、民法は財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養について、婚姻関係が解消される理由が離婚である場合と死亡である場合が区別されていることを理由に、「死亡により内縁関係が解消した場合に…離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である」と判示しています。
このように、死亡により内縁関係が解消された場合には、死亡した内縁配偶者の相続人に対し、生存している内縁配偶者が清算的要素・扶養的要素を含む財産分与を請求することはできなくなるため注意が必要です。
内縁配偶者による共有財産としての請求について
死亡により内縁関係が解消された場合において、財産分与請求権が認められないことから、内縁中に取得した財産が物権法上の共有財産であると主張して共有持分の確認等を求めることが考えられます。
例えば、大阪高裁昭和57年11月30日判決は、婚姻関係・内縁関係を問わず、夫婦が共同して家業を経営し、その収益から夫婦の共同生活の経済的基礎をなす財産として不動産を購入した場合には、当該不動産は登記簿上の所有名義を夫としても、特段の合意がない限り、夫婦の共有財産として同人らに帰属すると判示し、生存した内縁配偶者による不動産が共有であることの確認及び所有権構成登記手続を求める請求を認めています。このような判断を一般化することはできず、個別・具体的な事実関係に基づいての判断かと思われますが、死亡により内縁関係が解消された場合の解決策として参考になるところです。
財産分与と相続についての問題点
夫婦の一方が死亡した場合に、財産分与請求権や財産分与義務が相続の対象となるかについては問題となり得るところです。
離婚前に夫婦の一方が死亡した場合
離婚前に夫婦の一方が死亡した場合には財産分与請求権は発生しないことから、財産分与請求権が相続の対象となることはありません。民法は婚姻関係が解消される理由が離婚である場合と死亡である場合で区別していることから、離婚前に夫婦の一方が死亡したときは相続の規定に従って財産の規定が適用されることになります。
なお、東京高裁平成16年6月14日決定は、離婚及び財産分与を求めて調停が申し立てられたものの、調停が成立しないまま夫婦の一方が死亡した事案において、夫婦の死亡前に調停申立てがされた場合でも、離婚成立前に夫婦の一方が死亡しているため財産分与請求権が発生することはないと判断しています。
離婚後、財産分与前に夫婦の一方が死亡した場合
離婚後、財産分与前に夫婦の一方が死亡した場合に、財産分与請求権が相続の対象となるかは、財産分与請求権がどの程度具体化しているか、財産分与のどのような内容が問題となっているかによって異なります。
まず、財産分与請求権が協議・裁判によって具体的な内容が決まっているような場合には相続の対象となります。また、離婚慰謝料については、慰謝料は当然に相続されるというのが判例の立場であることから(最高裁昭和42年11月1日判決参照)、財産分与として請求されたとしても不法行為による損害賠償請求権という実質に代わりはないことから相続性が認められると考えられます。
これに対し、離婚によって抽象的な財産分与請求権が発生した段階や、財産分与を請求したものの協議・裁判によって具体的な内容が決まらない段階で、夫婦の一方が死亡したときは相続の対象となるかが問題となり得ます。この点に関しては、財産分与を請求した段階に至ったときは財産分与請求権の相続性が認められる可能性があるものと思われます。例えば、大阪高裁平成23年11月15日決定は、財産分与調停が審判に移行した後に内縁配偶者の一方が死亡した事案において、財産分与請求権は一定程度具体化していたと認めることができるとして財産分与義務が相続されると判断しています。