財産分与の判例:知っておくべき実務上の重要判例11選

この記事では財産分与の判例について解説します。

財産分与の判例とは、裁判所が財産分与について問題となる点について示した判断です。

 

離婚をする時は様々な点が問題となりますが、とくに高額な請求になるのが財産分与です。

財産分与は夫婦が協力して築いた財産を清算するものですが、離婚事案の約15%において1000万円超の財産分与が認められるとも言われています。

 

どのように財産を分けるかは夫婦の話し合いで決まりますが、話し合いがまとまらなければ最終的に裁判所が決定します。

そのため、財産分与で裁判所がどのような考え方を知っておくことが重要です。財産分与の判例を知って有利に財産分与を進めるようにしましょう。離婚・財産分与を扱う弁護士から見て実務的に重要な判例を紹介します。

 

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

 

1.     財産分与と慰謝料の関係

離婚とお金については財産分与と慰謝料が問題となります。そこで、財産分与と慰謝料はどのような関係かが問題となります。

(参考)離婚・財産分与の全て

 

1.-(1)  財産分与と慰謝料をどのように請求するか:最高裁昭和53年2月21日判決

 

まず、財産分与と慰謝料は別々に請求することも一緒に請求することもできるというのが判例の考え方です(最高裁昭和53年2月21日判決)。

 

もし、財産分与と慰謝料を一緒に請求したときは、財産分与と慰謝料はそれぞれ決まるため財産分与の金額を定めるときに損害賠償を考慮することができません。

例えば、この判例においては、「慰謝料として200万円、財産分与として300万円を支払う」といった判決が正当だと判断されています。

 

1.-(2)  財産分与後も慰謝料は請求できる:最高裁昭和46年7月23日判決

 

もし財産分与だけを請求したときは、後から慰謝料を請求できるのでしょうか?

この点に関して、財産分与をした後に慰謝料を請求することができるとする判例があります(最高裁昭和46年7月23日判決)。

 

この判例では、まず財産分与請求権は有責配偶者に対する慰謝料請求権とは性質が違うとしています。

そして、財産分与によって、損害賠償の要素を含めた趣旨ではないか又はその金額や方法が精神的苦痛を慰藉するに足りない場合は、財産分与がなされても別途慰謝料を請求できるとしています。

他方で、財産分与によって、相手の有責な行為によって離婚に至った精神的苦痛が慰藉されたのであれば慰謝料は認められません。

 

2.     財産分与の基準時点についての判例

 

2.-(1)  別居が財産分与の基準:名古屋高裁平成21年5月28日判決

 

別居をした後に離婚をしたケースでは、どの時点で財産分与の対象財産を決めるかが問題となります。この点に関しては、別居時点が財産分与の基準時とするのが判例です(名古屋高裁平成21年5月28日判決)。

 

この判例では、「離婚前に夫婦が別居した場合には、特段の事情がない限り、別居時の財産を基準にしてこれを行うべき」としています。

また、同居期間の前後にまたがって財産を取得した場合は、月割計算その他の方法で同居期間中に取得した財産額を考えて財産分与の請求を認めるとしています。

 

2.-(2)  夫婦関係が破たんしていても同居していれば関係ない:東京家裁平成22年6月23日審判

 

他方で、同居をしていれば婚姻関係が破たんしていても、同居期間には財産分与を認めるのが判例の立場です(東京家裁平成22年6月23日審判)。

 

この判例では、同居をしながら離婚調停・離婚裁判を行っていた事案において、どの期間についての退職金が財産分与の対象となるかが問題となりました。

裁判所は、離婚訴訟を提起した時点頃には婚姻関係が破たんしていたと判断しながらも、従前通り同居生活を送っていたため同居期間を基準として退職金の財産分与を認めました。

 

3.     財産分与の割合についての判例

財産分与の割合については、夫婦が平等に財産形成に貢献したとして、原則として2分の1ずつとするのが実務的な取扱いです。

 

もっとも、2分の1ルールを修正した判例も少なからず認められます。

判例 概要
浪費を理由に財産分与の割合を夫3:妻7とした判例

 

東京高裁平成7年4月27日判決 特有財産から支出があったことを理由に夫64%:妻36%とした判例
大阪高裁平成26年3月13日判決 開業医について夫6:妻4とした判例

 

東京地裁平成15年9月26日判決 上場企業経営者について夫95%:妻5%とした判例

 

財産分与の割合について2分の1ルールとどのような場合に例外が認められるか、上記判例のポイントについては下記記事を参考にしてください。

(参考)財産分与の割合:2分の1ルールの原則と例外を豊富な事例で解説 

 

4.     財産分与の対象財産についての判例

 

財産分与の対象となるのは夫婦が協力して築いた共有財産です。他方で、夫婦のどちらかのものと認められる特有財産は財産分与の対象とはなりません。

共有財産は、現預金、不動産、退職金、保険金等の様々な財産が問題となります。ここでは、各財産毎にどのような判例があるかを解説します。

 

なお、共有財産と特有財産については下記記事も参考にしてください。

(参考)共有財産と特有財産とは

 

4.-(1)  不動産に関する判例:大阪高裁平成23年2月14日判決、東京高裁平成10年3月13日判決

 

共有財産であるかは名義には関係ないため、夫婦の片方の名義となっている不動産も財産分与の対象となります。

 

もっとも、夫婦間で片方の特有財産とする合意があったときは特有財産と扱われます。例えば、居住用不動産の配偶者に対する贈与について贈与税免除制度を利用する節税目的で特有財産とされた事案について、裁判所はこれを特有財産と認めました(大阪高裁平成23年2月14日判決)。

この事例では、節税目的があった他、不倫を疑われたため不満を抑えるために特有財産とすることが合意された事情がありました。このような場合には、当事者の意思を尊重して特有財産と扱うべきと裁判所は判断しています。

 

また、不動産がオーバーローンになっているときも様々な扱いがあります。原則として、債務は財産分与の対象とならないのが実務的な扱いです。従って、オーバーローンの不動産の価値はないものとして扱うことになります(東京高裁平成10年3月13日判決)。

 

持ち家があるようなときはどのように財産分与をするかが問題となります。とくに残っているローンをどうするかが問題になる場合や、夫婦のどちらかが持ち家に住み続けたい場合は上手く財産分与をする必要があります。

持ち家がある場合の財産分与については下記記事を参考にしてください。

(参考)離婚時に持ち家があるときのポイント ケース別で分かりやすく解説

 

4.-(2)  退職金に関する4つの判例

 

退職金も財産分与の対象となりますが、その判断方法は既に退職金が支払われた場合と将来的に退職金が支払われる予定である場合で異なります。

なお、退職金と財産分与については下記記事でも詳しく解説していますのでご覧ください。

(参考)財産分与で退職金を請求するための全知識9項目

 

まず、既に支払われた退職金があるときは原則として共有財産の現預金として残っている金額が財産分与の対象となります。

もっとも、離婚までに別居期間があるケースでは、同居期間に相当する退職金のみを財産分与の対象とした判例もあります(横浜家裁平成13年12月16日審判)。

 

他方で、将来支払われる予定の退職金については様々な判例があります。

まず将来支給される退職金がそもそも財産分与の対象となるかについて問題となります。この点に関しては、支給される高度の蓋然性があれば将来の退職金も財産分与の対象となるとした判例があります(東京高裁平成10年3月13日決定)。

 

また、将来の退職金は全額が財産分与の対象となるわけではありません。とくに在職期間のうち別居期間と同居期間を分けて、在職期間のうち同居期間や結婚期間に対応する金額が財産分与の対象とするのが判例です(東京家裁平成22年6月23日審判、東京地裁平成11年9月3日判決等)。

 

 

5.     その他財産分与が問題となった判例

5.-(1)  別居時の財産持ち出しで損害賠償ができるか?:東京地裁平成26年4月23日判決

 

別居をするときに現金を持ち出したり、又は他方名義の預貯金から払戻しをすることは少なくありません。このような場合に損害賠償が請求できるかが問題となります。

 

この点に関して、原則として損害賠償は請求できないとするのが判例です。

もっとも、持ち出しをしたら財産については財産分与を請求するときに考慮されます。従って、財産持ち出しをしても得をするわけでもありません。

 

例えば、東京地裁平成26年4月23日判決は、夫名義の銀行預金約1800万円を妻が無断で引き出したとして損害賠償を請求した事案です。

裁判所は、別居をしても必然的に離婚に至るわけでなく、別居期間中の生活費等も必要となるとした上で、本件にといて財産分与を経ないで預金債権を独占する目的で引出行為をしたとは認められないとして損害賠償を認めませんでした。

 

前述の通り財産分与は別居時点を基準として判断されます。別居時に財産を持ち出した場合は、当該財産は別居時に存在した共有財産となります。

従って、このような持ち出しに対して損害賠償をするのではなく、あくまで離婚時の財産分与手続において清算を図るべきというのが判例の立場のようです。

 

5.-(2)  財産開示を拒否したケースの判例:東京高裁平成7年4月27日判決

 

財産分与の金額を判断するときは、夫婦双方が管理している財産を把握する必要があります。しかし、裁判所が説得をしても、自己名義の財産開示を拒むケースも少なくありません。

このような財産隠しに対しては、弁護士会照会や調査嘱託によって可能な限り財産を調査することになります。

(参考)財産分与で弁護士会照会や調査嘱託を利用する方法:離婚時に財産隠しをされたときの有力手段

 

もっとも、財産隠しをしている可能性があり、調査をしても財産が明らかにならない場合は何かしらのペナルティはあるのでしょうか?

この点に関して、共有財産を所持している可能性が疑われることを財産分与の割合を判断する上で考慮した判例があります(東京高裁平成7年4月27日判決)。

 

この事案は財産分与の割合を夫36%:妻64%とした事案ですが、夫に浪費があったことや財産隠しの可能性があること等の様々な事情を踏まえて裁判所は判断しています。

従って、財産隠しの可能性がある事案に一般化することは難しいですが、少なくとも財産分与を有利に進めるためには様々な事情を主張することがポイントになります。

 

6.     まとめ:有利な条件を獲得するために財産分与の判例を知ろう

 

判例は、財産分与に関する様々な論点について裁判所が下した判断です。

 

裁判所が法律解釈をする場合に最も重視するのは過去の判例です。従って、少しでも有利な条件で財産分与を請求したいのであれば、様々な判例を知っておくことが重要です。

この記事で紹介したのは、財産分与において実務上とくに重要と思われる判例の一部です。

財産分与で問題になる判例はまだまだあります。もし、財産分与について悩みや不安があれば、数多くの判例を踏まえてアドバイスをしてくれる弁護士に相談してみましょう。

(参考)離婚・財産分与に強い弁護士に無料相談するなら

 

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