子どもがいる場合の離婚について

未成年の子どもがいる場合の離婚は、親権や養育費の取決め等が必要となります。

離婚を考えたときは3つの視点×8つのポイントで問題点を整理できますが、離婚と子どもの問題は2つ目の視点として重要です。

(参考)離婚したいなら考えるべき3つの視点×8つのポイント

 

なお、未成年者の子どもがいる場合は離婚届に親権者を記載しなければならないため、親権者が決まっていないと離婚届を受理して貰うことが出来ません。

きちんと子どものことを考えた上で離婚を検討する必要があります。

 

1.     子どもがいる場合の離婚①:子どもの親権をどちらが持つか?

離婚をする場合は、夫婦のどちらが子どもを引き取るかが問題となります。そのため、親権・監護権の内容や決め方について知識を整理しましょう。

 

1.-(1)  親権とは

 

親権とは、未成年である子どもの生活を管理する親の権限のことです。もっとも、親権は未成熟な子どもを保護するために与えられたものであり、親の義務と責任でもあります。

 

具体的な親権の内容には以下のものが含まれます。

 

①財産管理権

・子どもの法律行為に対する同意権

 

②身上監護権

・子どもの身分行為に対する同意権・代理権

・子どもの居所を指定する権限

・子どもに対して懲戒・しつけをする権限

・子どもの職業を許可する権限

 

親権の内容には身上監護権が含まれますが、身上監護権とは要するに子どもと一緒に生活をして、世話や教育を行う権限のことです。

原則として、親権と監護権は一致しますが、親権者が子どもを監護できない事情がある場合は親権者と監護権者が別々になることもあり得ます。

 

1.-(2)  親権を誰が持つか

 

父母が婚姻関係にある場合は、親権は原則として父母が共同して行使します(共同親権、民法818条3項)。

 

しかし、父母が離婚する場合は、共同親権とすることはできず、父母のいずれかを親権者として定めなければなりません(民法819条1項)。

そこで、夫婦のいずれが親権を獲得できるかが問題となるのです。

 

1.-(3)  親権者の決定方法

 

協議離婚の場合は夫婦で話し合いをして片方を親権者とします。

未成年の子どもがいる場合は、親権者を決めずに先に離婚だけすることは出来ません。なぜなら、離婚届には親権者を記載する必要があるため、親権者が決まっていないと離婚届を受理して貰えないからです。

なお、慰謝料や財産分与については離婚後に改めて請求できますので、離婚後であっても弁護士にご相談いただければと存じます。

 

親権者を夫婦間の話で決めることができない場合は、調停手続、審判手続、裁判手続によって親権者を決めることになります。

調停手続は夫婦が同意しないと親権者が決まらないのに対し、審判手続・裁判手続では同意しなくても裁判所が様々な事情を考慮して親権者を決定することがポイントとなります。

 

なお、親権決定後も親権者変更の調停・審判を行うことが出来ますが、親権変更がとくに必要な特別の事情が必要となるため、後から親権を変更しようと思ってもハードルが高く、最初の段階で親権を獲得することが重要となります。

 

絶対に親権を獲得したい場合には、調停委員や裁判所に対して親権獲得のために有利となる事情を上手く説明する必要があるため、弁護士に依頼されることをおすすめします。

 

1.-(4)  親権者の決定基準

 

それでは、どのような基準で親権者が決定されるのでしょうか。

 

親権は、親の権限でもありますが、未成熟な子どもの世話・教育を行う親の義務でもあります。

そのため、親権者の決定基準は、親である夫婦の意向だけではなく、子どものためにはどちらを親権者にするべきかという観点から決められます。

 

一般的に以下の事情を考慮して判断がなされます。

  • 子ども本人の意思・年齢
  • 子どもに対する愛情
  • 監護能力
  • 経済力
  • 家庭環境
  • 親族の協力体制

 

以下では上記の各要素について詳しく説明して行きます。

 

①    子ども本人の意思・年齢

 

子どもが幼い程、親権争いは母親が有利になります。

子どもの幼少期は衣食住に関して世話をする必要があり、一般的に母親の方が養育能力が高いと考えられているからです。とくに乳幼児への授乳は母親しかできないという事情があります。

また、幼少期は母親が子どもと触れ合う機会が多いため母親になついているケースが多いからです。

 

子どもが10歳以上の場合は、子どもが自分で判断できるとして、子どもの意思が判断要素として加味されます。

また、子どもが15歳以上の場合は親権を裁判所が決める場合には、子どもの意思を聞く必要があります。子どもが15歳以上である場合、裁判所は基本的に子どもの意見を尊重するため、子どもの意思が決定的に重要な要素となります。

 

②    子どもに対する愛情

 

愛情を持っていない親はほとんど存在しませんが、愛情の強さは客観的には示せません。

そこで、実務的には相手方が子どもに対する愛情を欠いているという形で主張がなされます。

 

例えば、妻が不倫(不貞行為)を行ったことは親権者決定とは直接関係しませんが、浮気のために子どもを放置して遊びに出かけていったような事情がある場合は子どもに対する愛情がないことを示すエピソードとなります。

 

③    監護能力

 

親権の内容には監護権も含まれるため、監護能力も判断要素となります。

監護能力は、子どもの世話を行う能力あり、具体的には食事の用意、衣類の洗濯、住居の掃除等の家事能力が問われます。

 

④    経済力

 

経済力の高さは決定的な基準にはならず、基本的な生活ができるか否かという観点から決定されます。

親権を決定するときは経済力の優劣が問題となるわけではありません。

 

例えば、夫の年収が3000万円であり、妻の年収が500万円である場合は、妻に比べて夫の方が経済力は優れています。

しかし、妻の年収でも子どもを育てるためには十分な経済能力があると言えます。

従って、他の要素で妻が親権者として相応しい場合は年収が劣っていることが直ちにマイナスにはなりません。

 

なお、経済力は相手方からの養育費等も考慮に入れて判断されるため、年収の高い夫からの養育費も収入と考えて子どもを養うことができると主張される場合があるので注意が必要です。

 

⑤    家庭環境

 

家庭環境(居住環境・教育環境)についても考慮されます。

雑多な繁華街か閑静な住宅街であるという絶対的な環境の違いもさることながら、従前の家庭環境が変化するか否かという点も考慮されます。

 

例えば、親権を母親が獲得することによって居住する都道府県が変わる、又は通学している学校が変わる場合にはマイナスに評価されます。

なお、別居しながら離婚調停を行っている場合に既存の家庭環境(父親と母親のどちらと同居しているか。)は重視される傾向にあります。

 

⑥    親族の協力体制

 

子どもの世話・教育について協力が必要となる場合があるため協力体制が整っていることはプラスの要素です。

父親にとっては仕事との兼ね合いで子どもの日常生活を見てくれる両親の協力が必要となりますし、母親にとっては主に経済的な面で親族から協力を得る必要があるケースが多いです。

 

2.     子どもがいる場合の離婚②:養育費をどうするか?

未成年の子どもがいる場合には、離婚後の親権者は養育費を貰うことができます。

 

離婚の法律相談では、養育費はどうでも良いから親権が欲しいと言う方も少なくありません。

しかし、現実問題として、離婚後に子どもを自分1人で育てることは難しいのであれば、子どものためにも養育費をきちんと支払わせることが親としての責任を果たすことになります。

 

2.-(1)  養育費とは

 

離婚時には未成年者の子どもの親権・監護権を離婚時に決定する必要があります。

子どもの親権を持つ親は、子どもの親権を持たない親に対して養育費を請求することが出来ます。

 

離婚によって夫婦の婚姻関係はなくなりますが、親と子どもの関係は継続するため、親権・監護権がなくとも、親子関係から子どもに対する養育義務は発生するのです。

 

2.-(2)  養育義務の内容:親と同水準の生活を営むことを保証する義務

 

養育義務の内容は、子どもが最低限生活するために必要な水準(扶養義務)ではなく、親と子ども同水準の生活を営むことを保証できる水準(生活保持義務)とされています。

 

養育費の根拠となる生活保持義務は、扶養義務より高度な義務です。

扶養義務は自分に余裕がある場合に援助すれば良いとする考え方です。これに対し、生活保持義務は、仮に自分の生活が苦しいような場合であっても、自分の生活水準を落としてでも支払う義務があるとされます。

 

夫婦の離婚によって一方が親権を獲得した場合、子どもが生活水準の高い方の親と同程度の生活を維持できるだけの養育費を請求することができるのです。

 

2.-(3)  養育費の計算方法

 

養育費の計算方法は実務的には養育費算定表が使われます。

予め作成された算定表をもとに父親と母親の収入に応じた金額を定めるという実務的な取扱いがなされています。

 

養育費は、まずは当事者同士の話し合いを行い、決まらない場合は調停・審判・裁判手続で決められることになります。

話し合いによって合意できれば、養育費算定表以上の金額を得ることができます。

もし、養育費算定表以上の養育費を得たいものの合意できない場合は、裁判官に対して、特別の事情を主張・立証することによって養育費算定表以上の金額を定めて貰える場合もあります。

 

どのような事情が養育費増額事由になるかは、個別具体的事案毎とによって異なるため、少しでも多くの養育費を貰いたい場合は弁護士にご相談下さい。

 

2.-(4)  養育費の請求時期

 

養育費をいつ請求するかは重要なポイントです。なぜなら、養育費が貰えるのは原則として請求した時点からであり、過去の養育費は貰えないと実務上扱われているからです。

 

従って、離婚時には養育費をきちんと話し合う必要がありますし、もし養育費を現在貰っていない場合は速やかに弁護士に相談されることをおすすめします。

話し合いで養育費を貰えていないときは、早めに養育費を請求する調停の申立てをしないと、過去分の養育費は貰えないので注意が必要です。

 

また、養育費は子どもが成年に達する20歳までの期間について請求することができます。

子どもを大学に進学させる場合は、成年に達してから大学卒業までの養育費支払いについて相手方から合意を得る必要があります。

 

なお、養育費の増額又は減額についても、事情変更がある場合には認められることがあります。もし現在の養育費に不満がある場合は、まずは弁護士にご相談いただければと存じます。

 

2.-(5)  養育費が支払われない場合の対応策

 

養育費の支払いは、原則として毎月分割払いによってなされます。

 

養育費の支払いは長期間に及ぶことが多いため、徐々に養育費の支払いが遅れるようになり、最終的に養育費が支払われなくなったというケースが非常に多いです。

 

離婚調停や離婚訴訟等で養育費の支払いが定められている場合は、家庭裁判所から養育費支払いを相手方に勧告・命令して貰うことができます(以下「履行勧告」、「履行命令」といいます。)。

しかし、現実には履行勧告及び履行命令は実効力が乏しいです。

 

そこで、養育費の支払いがなされない場合は強制執行を行う必要があります。

迅速に強制執行を行うためには、離婚の話し合いがまとまった場合に話し合いの結果を公正証書にまとめる必要があります。

 

将来的に養育費の支払いがなされず困らないように、話し合いがまとまったとしても、弁護士に相談の上で公正証書を作成されることを強くお勧めします。

 

強制執行の対象は、相手方がサラリーマンの場合は給与債権を差し押さえることを検討します。

通常は、給与債権の強制執行は給与の1/4のみが対象ですが、養育費の場合には給与の1/2まで差し押さえることが可能ですので、かなり有効な手段となります。

 

もっとも、給与差押えの方法は相手方が退職した場合は回収できなくなるというデメリットがあります。給与差押えか他の財産の差押えか、どのように養育費回収を図るかについては、弁護士にご相談下さい。

 

3.     子どもがいる場合の離婚③:面会交流をどのように行うか?

3.-(1)  面会交流とは

 

面会交流とは、親権者でない親に対して、定期的に子どもを会わせることを言います。

面会交流は、親が子どもに会う権利であると同時に、子どもにとっても健全に発育するための権利であると考えられます。従って、面会交流では、子どもの福祉に貢献するかは重要な考慮要素となります。

 

3.-(2)  面会交流の決め方

 

面会交流をどのように実施するかは、まずは夫婦間の協議により決定します。面会交流については、どの程度の頻度・回数で面会交流をするかや面会交流の日時や場所の決め方を決める必要があります。

 

話し合いでは面会交流の実施について決められないときは、裁判所に対して面会交流の調停を申立てます。

調停が成立するためには当事者の同意が必要であるため、面会交流について夫婦間で合意できなければ、審判手続に移行し、最終的には裁判所が面会交流の可否や方法を決定します。

 

3.-(3)  面会交流の可否についての考慮要素

 

面会交流は、子どもが普段会えない親と会うことで健全な発育に資するものだと考えられています。

従って、面会交流は原則として子どもの権利でもあり、例外的に子どもの福祉に合致しないと判断されたときにのみ面会交流が制限されます。

 

具体的には、子どもや親権者の意見と親権者でない親の事情を考慮して判断されます。

 

子どもが自分の意見をしっかり言えるか又は15歳以上であれば、子どもの面会交流に対する意見は重要な要素となります。

他方で、子どもが幼い場合には、親権者が協力しないと面会交流は実現することができません。従って、親権者が面会交流に積極的であるかも実務的には考慮せざるを得ません。

 

また、親権者でない親の事情として、例えば、親権者に虐待や薬物使用等の問題行動があるときや、教育方針について意見が違うとき等があります。

親権者でない親と子どもが面会することで、子どもの精神状態が不安定になるおそれがあるときは子どもの福祉に反すると判断される場合があります。

 

3.-(4)  面会交流が実施されないときの対応

 

面会交流の義務があるにもかかわらず、面会交流が実施されないときの対応は難しい問題です。

 

法的義務に違反しているときは強制執行をすれば良いと考えられるかもしれません。

しかし、裁判所や執行官が子どもを連行して、強制的に親に会わせることはできません。つまり、面会交流については、直接強制による強制執行はその性質上馴染まないのです。

 

従って、面会交流の強制執行は、間接強制と呼ばれる方法で行われます。

間接強制による面会交流の強制執行とは、親権者が面会交流の義務を履行しなかったときに、面会交流をしないという義務違反1回について一定金額の間接強制金を支払わせることです。

親権者に対して面会交流をしなければ間接強制金を支払わせることで、心理的・金銭的なプレッシャーをかけて面会交流を実現させる方法です。

 

例えば、最高裁平成25年3月28日決定の事案では、面会交流の不履行1回について5万円の間接強制金が定められていた事案です。

なお、本決定では、子どもが面会交流を拒否していた点が問題になりましたが、最高裁は子どもが面会交流を拒否していることは間接強制決定を妨げないと判断した点も注目されます。

 

3.-(5)  養育費は面会交流の対価ではない

 

未成年の子どもについては、親権と養育費や面会交流は密接に関連しています。従って、養育費と面会交流を関連づけて考える方も少なくありません。

 

しかし、養育費の支払義務と面会交流の実施義務は別個独立したものです。

例えば、親権者が養育費を支払わない親に対して「養育費を支払わないと面会交流をさせない」と主張することはできません。

逆に、面会交流をしない親権者に対して、「面会交流をするまで養育費を支払わない」と主張することもできません。

 

養育費と面会交流は対価関係にあるわけではないので注意しましょう。

 

4.     未成年の子どもがいる場合の注意点

離婚を考えたときは3つの視点×8つのポイントで問題を整理する必要があります。

未成年の子どもがいる場合は2つ目の視点に基づき、親権、養育費、面会交流という3つのポイントを定める必要があります。

 

子どもがいる場合の離婚では、親権者を決めないと離婚ができません。しかし、親権を巡って深刻な争いになることも多いです。

離婚と子どもについては、夫婦間の問題だけでなく、子どもの将来にも関わる重要な問題です。

 

離婚をするときは子どものことをしっかり考える必要があるので注意しましょう。