財産分与を請求する手続きについての問題点

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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財産分与を請求する手続きの種類

当事者間で財産分与についての協議が成立しない場合、家庭裁判所に対して協議に代わる処分の請求をすることができます(民法768条2項)。この財産分与を請求する手続きの種類としては以下の3つが考えられます。

  • 調停手続の場合
  • 審判手続の場合
  • 離婚請求事件における付帯処分の裁判手続の場合

 

財産分与の申立てに関する論点

財産分与の申立ての方法・期間について

財産分与の申立てを行うときは、必ずしも財産分与の金額・方法を特定する必要はなく、抽象的に財産分与の申立てをすれば足りるとするのが判例の立場です(最高裁昭和41年7月15日判決)。

また、財産分与の申立ては、離婚前には行うことはできません。但し、離婚請求と同時に申し立てることはできます。他方で、財産分与の申立ては離婚から2年以内に行う必要があります(民法768条2項、除斥期間)。

当事者で合意が成立した後の財産分与の申立て

財産分与の申立ては、当事者の協議に代わる処分の請求であるため、財産分与について当事者間で協議が成立した場合には財産分与の申立ては不適法であるとされます。もっとも、当事者間の合意が財産分与についての合意と言えない場合や、財産分与の対象財産の全てについて合意が成立しない場合には、財産分与の協議に未了な部分が残っていることから財産分与の申立てをすることができると考えられています。

財産分与の合意が履行されない場合

財産分与について当事者間で合意が成立したものの、合意通りに履行がされない場合には、財産分与の合意の履行請求は家庭裁判所の管轄ではなく民事訴訟事項であるとされます。

また、財産分与の合意を債務不履行により解除し、改めて財産分与を申し立てることも可能である考えられます。広島家裁昭和63年10月4日審判は、財産分与について当事者間で念書が作成されたものの、念書通りに履行がされなかった事案において、念書について解除の意思表示という明確な形式を踏んではいないにしても、念書に拘束されず改めて審判により公正な財産分与の金額を定めることができると判断しています。

財産分与の申立ての管轄

財産分与の申立ての管轄は、夫又は妻であった者の住所地の家庭裁判所であるとされています(家事事件手続法150条5号)。

(管轄)

第百五十条 次の各号に掲げる審判事件は、当該各号に定める地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

一 夫婦間の協力扶助に関する処分の審判事件(別表第二の一の項の事項についての審判事件をいう。次条第一号において同じ。) 夫又は妻の住所地

二 夫婦財産契約による財産の管理者の変更等の審判事件(別表第一の五十八の項の事項についての審判事件をいう。) 夫又は妻の住所地

三 婚姻費用の分担に関する処分の審判事件(別表第二の二の項の事項についての審判事件をいう。) 夫又は妻の住所地

四 子の監護に関する処分の審判事件 子(父又は母を同じくする数人の子についての申立てに係るものにあっては、そのうちの一人)の住所地

五 財産の分与に関する処分の審判事件 夫又は妻であった者の住所地

六 離婚等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の審判事件(別表第二の五の項の事項についての審判事件をいう。) 所有者の住所地

義務者による財産分与の申立ての可否

財産分与を支払う義務者から財産分与の申立てをすることができるかについては、離婚請求事件における付帯処分での申立てにおいて問題となることがあります。実務的には、申立人から相手方への給付を求める場合には不適法却下する取扱いが一般的であるとされています。これに対し、申立人が自らが権利者として申立てを行ったものの、審理の結果として申立人に財産分与の義務があると認められた場合、申立てを却下する取扱いだけではなく、申立人から相手方への分与を認める扱いがあるようです。

 

財産分与における調停手続

 

財産分与請求調停の申立て

家事事件手続法255条1項により、家事調停の申立ては申立書を提出して行うことになります。申立書には申立ての趣旨・理由を記載する必要がありますが(家事事件手続法255条2項)、申立ての趣旨としては財産分与の金額や方法を特定する必要はないとされています(最高裁昭和41年7月15日判決)。

申立書には財産目録を添付し、財産分与の対象となる財産にはどのようなものがあるのかを明らかにします。さらに、不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し・残高証明書、株式の取引明細書等の財産についての資料も添付します。

どのように財産分与の調停期日は進行するか

財産分与の調停期日においては、財産分与の対象となる財産の一覧表を作成することを基本として段階的に進行するのが一般的です。具体的には以下のような5段階のステップを踏んで財産分与の調停手続を進めることになります。

  • 財産分与の基準時と対象となる財産を明確にする
  • 財産分与の対象となる財産の金額を評価する
  • 財産分与の対象となるか否かを協議する
  • 財産形成への貢献度を踏まえて財産分与の割合を判断する
  • 財産分与の金額と方法を決定する

 

財産分与における審判手続

財産分与に関する処分の審判手続については、原則として当事者の陳述を聞かなければならず、その聴取は当事者の申出があるときは審問の期日においてするべきとされています(家事事件手続法68条、別表第二)

(陳述の聴取)

第六十八条 家庭裁判所は、別表第二に掲げる事項についての家事審判の手続においては、申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当事者の陳述を聴かなければならない。

2 前項の規定による陳述の聴取は、当事者の申出があるときは、審問の期日においてしなければならない。

また、財産分与の請求が、調停手続から審判手続に移行したような場合には、主に調停手続で争点となったものの合意に至らなかった点を中心に審理を進められることになります。基本的には審理の進め方は財産分与の調停における段階的な進行と同様のステップを踏んで行われることになります。

 

離婚事件の附帯処分としての財産分与請求の手続

離婚の訴えにおいて、附帯処分として財産分与に関する処分の申立てがなされた場合、離婚訴訟の審理と附帯処分について裁判所の事実調査のいずれもが行われることになります(人事訴訟法33条1項参照)。

したがって、裁判所は民事訴訟法の規定による証拠資料と事実調査による証拠資料の双方から判断することが可能となります。もっとも、審理の方式としては、民事訴訟における立証責任に類似した立証の負担を当事者に課し、裁量的要素をできるだけ排した訴訟的な運用を行うこととされています。

もっとも、判断において問題となる点は調停における段階的な進行と同様のポイントであるのでそちらを参考にしてください。

(事実の調査)

第三十三条 裁判所は、前条第一項の附帯処分についての裁判又は同条第三項の親権者の指定についての裁判をするに当たっては、事実の調査をすることができる。

2 裁判所は、相当と認めるときは、合議体の構成員に命じ、又は家庭裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して前項の事実の調査(以下単に「事実の調査」という。)をさせることができる。

3 前項の規定により受命裁判官又は受託裁判官が事実の調査をする場合には、裁判所及び裁判長の職務は、その裁判官が行う。

4 裁判所が審問期日を開いて当事者の陳述を聴くことにより事実の調査をするときは、他の当事者は、当該期日に立ち会うことができる。ただし、当該他の当事者が当該期日に立ち会うことにより事実の調査に支障を生ずるおそれがあると認められるときは、この限りでない。

5 事実の調査の手続は、公開しない。ただし、裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。

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