離婚に伴う財産分与の意義や性質

離婚に伴う財産分与は、離婚時に大きなお金が動く問題であるため弁護士に法律相談をされる方は非常に多いです。この記事では離婚に伴う財産分与の基本的な時効について、その意義や性質、どのような内容が認められるのか、財産分与に関する契約の有効性等を裁判例を紹介しつつ解説します。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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財産分与の意味・根拠

財産分与とは

夫婦が離婚した場合において、婚姻中に形成された財産を清算するのが財産分与の制度です(民法768条1項、771条)。どのように財産分与を行うかは、夫婦間の協議によるか又は家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することになります(民法768条2項、771条)。

なお、財産分与の請求は離婚後2年以内という除斥期間が設けられているので注意が必要です(民法768条2項但書、771条)。

財産分与請求権の性質

財産分与請求権はどのような権利かについては考え方が分かれていますが、離婚の成立により基本的・抽象的な財産分与請求権が生じるものの、現実的・具体的な財産分与請求権は当事者間の協議又は裁判所の審判によって生じると考えられています

例えば、最高裁昭和55年7月11日判決は、「財産分与請求権は、一個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成される」と判示しています。

財産分与請求権の一身専属性

基本的・抽象的な財産分与請求権は一身専属的な権利であり、第三者に譲渡することはできず、強制執行における差押えの対象となったり、破産手続における破産財団に属したりすることもないと考えられています。

 

財産分与の3つの内容

財産分与の内容としては、清算的要素、扶養的要素及び慰謝料的要素の3つが含まれるとされています。

財産分与の清算的要素

財産分与の清算的要素は、一般的にイメージされる財産分与の内容であり、結婚生活を通じて夫婦が協力して形成した財産を清算するものです。財産分与の清算的要素に関しては、どのような財産が対象となるか(共有財産・特有財産の区別)や、どのような割合で財産を清算するか(2分の1ルール)等が問題となります。

財産分与の扶養的要素

財産分与の扶養的要素とは、離婚後における相手方の生計を維持する目的での財産分与です。最高裁昭和46年7月23日判決は、財産分与の制度は「離婚後における…整形の維持をはかることを目的とする」と判示しており、財産分与に扶養的要素があることを認めています。

もっとも、離婚後は夫婦は各自が別々に生活を行うべきものであるため、扶養的財産分与は夫婦の一方が経済的に自立することが困難な場合に補充的に認められるにすぎません。明確な基準はありませんが、婚姻費用相当額は実務上一つの基準とされているようです。また、扶養的財産分与は、元配偶者の生計維持が目的であるため財産分与の対象となる財産は問題とならず特有財産も考慮してどのような分与をするか決めることができるとされているので注意が必要です。

財産分与の慰謝料的要素

財産分与の慰謝料的要素とは、要するに夫婦の一方から相手方に対する離婚慰謝料のことです。離婚慰謝料が生じる場合、離婚慰謝料を財産分与と別個に請求することも、離婚慰謝料を財産分与に含めて請求することができます。

最高裁昭和46年7月23日判決は、離婚と財産分与を命じる判決が出た後に離婚慰謝料の請求がされた事案において、既に財産分与がなされたからといって、別途離婚慰謝料の請求が妨げられるものではないと判断しています。

もっとも、財産分与と離婚慰謝料を二重取りできるものではなく、財産分与において慰謝料的要素を含めて給付がなされた場合には、離婚慰謝料の金額を算定するときに財産分与に慰謝料的要素があった事情が慰謝料の減額事由として考慮されることになります。

なお、夫婦の一方の不倫が離婚の原因であるような場合、不倫をした配偶者に対する離婚慰謝料と不倫相手に対する不倫慰謝料を請求することができます。しかし、最高裁平成31年2月19日判決は、第三者である不倫相手に対しては特段の事情がない限り離婚慰謝料は請求できないとしているので注意が必要です。最高裁平成31年2月19日判決は分かりにくい点もあるので詳しくは下記記事を参考にしてください。

(参考)不倫による慰謝料請求の時効は何年か。民法改正も踏まえて弁護士が解説

 

財産分与に関する契約の有効性

財産分与請求権を放棄したり、又は婚姻前に財産分与の内容を決定したりする契約がなされることがあります。また、夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも夫婦の一方から取り消すことができるとされています(民法754条)。そのため、財産分与に関する契約の有効性が問題となります。

婚姻関係が破たんした後の財産分与に関する契約

民法754条は、夫婦間の契約について婚姻中はいつでも取り消すことができるとしていますが、この婚姻中とは実質的に婚姻関係が継続している必要があると考えられています。そのため、最高裁昭和42年2月2日判決は、婚姻が実質的に破綻している場合には民法754条により夫婦間の契約を取り消すことは許されないと判示し、婚姻関係が破たんした後に作成された不動産を贈与する旨の書面の取消しを認めませんでした。

財産分与による契約の錯誤による無効

民法改正前において財産分与に関する契約が錯誤により無効とされた事例があります(なお、民法改正により錯誤は取消事由とされました。)。

最高裁平成元年9月14日判決は、財産分与をした夫が自己に譲渡所得税が課税されないと誤解していたことから、この錯誤がなければ財産分与契約の意思表示をしなかったと認める余地があると判示して、原判決を取り消して差し戻しました。そして、差し戻し後の東京高裁平成3年3月14日判決は、財産分与契約の錯誤無効を認めています。

婚姻前の財産分与に関する契約

夫婦間でした契約は婚姻中いつでも取り消すことができるとされているため、婚姻前の夫婦財産契約等において離婚時の夫婦財産の清算方法を定める場合があります。とくにベンチャー企業の社長が結婚をするような場合、万が一離婚することになったときは会社の株式が財産分与の対象となると会社経営に支障を来しかねず、予め婚姻前に夫婦財産契約等を締結する必要性は高いといえます。

もっとも、婚姻前の財産分与に関する契約は必ずしも有効とは判断されないリスクがあるので注意が必要です。例えば、東京地裁平成15年9月26日判決は、婚姻前に夫婦の一方が申し出ることでいつでも離婚できることや、その場合の財産分与の金額を定めた誓約書が作成あれていた事案において、当該誓約書の効力を認めませんでした。その理由として、裁判所は、定められた金員を支払うことで協議離婚に応じなければならないとする誓約書は、離婚という身分関係を金員の支払いによって決するものであるため公序良俗に反して無効であることや、誓約書は協議離婚の場合しか想定していないこと等を理由として挙げています。

東京地裁平成15年9月26日判決の事案では、夫は上場企業の創業社長であり財産分与の対象は約220億円と巨額に上るものであったため、そのような事情を踏まえて婚姻前に誓約書が作成されたと考えられます。婚姻前に財産分与に関する契約を作成する場合は、このような裁判例に照らして、有効性が認められないリスクがあることを理解した上で、可能な限り有効性が認められるような文言の工夫をする必要があるので注意が必要です。

 

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