離婚と別居は密接な関係があります。しかし、離婚をするために別居を考えているものの、別居をするとどうなるかよく分からない人もいるのではないでしょうか。
離婚の準備をする上で別居は重要な意味を持ちます。
この記事では離婚に際して別居する法的意味や効果を解説します。また、別居中の生活についてのポイントも解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 離婚で別居する2つの法的意味
夫婦のどちらかが離婚に反対している場合等で、すぐに離婚できないときは別居を選択するケースも多いです。
実は、別居は単なる夫婦の冷却期間や離婚を避けるための応急措置ではありません。
離婚を考えているときに別居をするのであれば、次の通り重要な法的意味があることに注意が必要です。
- 別居期間が長ければ離婚ができる
- 離婚時に請求する財産分与の基準時となる
1.-(1) 別居期間が長ければ離婚できる
夫婦のどちらかが離婚に反対していれば協議離婚はできません。
しかし、別居期間が長ければ強制的に離婚ができます。従って、離婚を考えているのであれば、早めに別居生活をスタートさせる必要があります。
夫婦のどちらかが反対していても離婚が認められるためには離婚原因が必要です。離婚原因とは、夫婦間に婚姻を継続しがたい理由があり、婚姻関係が破綻していると裁判所に認められる事情です。
そして、裁判所が夫婦関係の破たんを確認するための要素こそ「夫婦が別居している」という事実なのです。
単身赴任などでやむなく別居している場合を除き、夫婦が同居していないケースでは良好な関係があるとは言えません。法律的にも、夫婦は同居して互いに協力し合うことが定められており、同居が義務とされています。
従って、あなたが離婚をしたいときに、別居は夫婦関係が破はたんしていることを客観的に示す事実であり、別居期間が長ければ離婚に一歩近づいたと言えます。
離婚が認められるためにどの程度別居期間が必要かは法律で決まっているわけではありません。
一応の目安としては5年程度~となります。但し、あなたが不倫をした側で別居に至ったような事案では7~10年程度は別居期間が必要となります。
1.-(2) 離婚時の財産分与の基準時となる
別居が長期間続き、いよいよ離婚をするとなったときは離婚に伴って様々な問題があります。例えば、慰謝料や財産分与を請求するか、子どもの親権や養育費をどうするか等です。
この中でもとくに重要なのが財産分与です。離婚をするケースの15%は1000万円超の財産分与を請求できるとも言われており、離婚後の生活を考える上でとくに重要です。
財産分与の対象となるのは共有財産ですが、共有財産とは夫婦で協力して築いた財産を言います。従って、別居後の財産は特有財産となります。
実務上は、別居を経て離婚をした事案で財産分与の金額を算定するときは、別居時点の夫婦の財産を評価して財産分与を行います。
従って、別居をするタイミングによっては、どのぐらい財産分与を貰えるかが変わってきます。財産分与の観点でも、実は別居をいつするかは非常に重要です。
(参考)財産分与について
1.-(3) 離婚における別居の法的意味を理解する
離婚を考えたときに別居をすることは大きな法的意味があります。
そもそも、別居をしないと離婚が難しいケースもありますし、どのタイミングで離婚をするかで請求できる財産分与の金額が変わることもあります。
まず、離婚における別居の法的意味をきちんと理解することが重要です。もし、別居をするべきか悩むようであれば、離婚・財産分与について弁護士に相談することをおすすめします。
2. 正しい別居の方法について
別居には重要な法的意味がありますが、他方で、きちんと別居をしないと大きな不利益が生じる可能性があります。そこで、どのような手順で別居をするべきか、正しい別居の方法について説明します。
2.-(1) 別居をするための理由をきちんと考える
まず、別居する前になぜ別居をするかをきちんと考えましょう。
原則として、夫婦は同居して協力して生活する義務があります(民法752条)。もし、相手方の意思に反して別居を強行したときは、最悪の場合は「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。
従って、別居をする前になぜ別居をするのか、別居を正当化できる事情があるかをきちんと考えましょう。
もっとも、別居をしたことが直ちに「悪意の遺棄」に該当するわけではありません。従って、別居を正当化できる事情と言っても深刻に考える必要はありません。
例えば、不倫をされてしまった、モラハラ・DVがある等で一緒に生活できないのであれば、無理をせずに別居した方が良いでしょう。
2.-(2) 家庭内別居はNG
離婚をしたいために別居をするのであれば家庭内別居は避けましょう。家庭内別居が別居に該当するかは判断が難しいですが、基本的には家庭内別居をしても意味がありません。
裁判実務においては、家庭内別居をしていても基本的に同居として扱われると考えておくべきです。もし、本気で離婚するのであれば、家庭内別居は避けましょう。
2.-(3) 住民票を移しておく
正しい別居の方法という意味では住民票を移しておくこともポイントになります。
離婚をするために別居期間は重要な要素ですが、いつから別居をしていたかを証明することが難しい場合もあります。
このような場合でも、住民票を移しておけば記録が残るため、後から別居の事実を証明する手掛かりとなります。
また、住民票を移さないと住民基本台帳法に違反することになりますし、市区町村や金融機関等の住民票の住所に送られる郵便物がスムーズに受け取れなくて不便です。
別居を開始したのであれば、できるだけ早く住民票を移しておきましょう。
2.-(4) 相手方と連絡と取るべきか否か
また、別居中は夫婦間で連絡を取って良いのか悩まれるかもしれません。結論としては、必要な連絡を取っていたからと言って別居の法的意味が失われることはないでしょう。
一般的には、別居をした後はメールや電話等の連絡先を伝えておくべきです。別居中と言えども法律上は夫婦関係が残っているため、連絡を取り合う場面が生じざるを得ません。
また、別居から何年か経過して離婚を本格的に話し合うためにも連絡先をお互いに把握しておく必要があります。
3. 別居をするべきか悩んだときの判断基準
離婚する時に別居をする法的意味を踏まえて、別居をするべきかの判断基準を解説します。
3.-(1) 相手方に非があるケース
もし相手方に非があるようなケースでは別居をした方が良いでしょう。このような場合は、別居をする正当な理由があると言えます。
- 相手方が不倫をしたことが分かった
- DV・モラハラの被害を受けている
- 生活費を貰うことができない
3.-(2) 本気で離婚をしたいケース
もし、あなたが本気で離婚したいと考えているにもかかわらず、相手方が離婚に反対し続けるようなケースでは別居もやむを得ません。
長期間の別居は離婚原因となりますし、別居がきっかけで離婚について話し合いができることも少なくありません。
別居をすれば、相手方に対して離婚の意思が固いことをアピールできるというメリットもあります。
自分が本気で離婚したがっていることを表現し、プレッシャーを与えたり反省させたりすることもできます。
相手方が離婚に反対していたとしても、その強い意志を目の当たりにして復縁を諦め、話し合いに応じてくれる可能性が高まります。
別居には重要な意味や効果があるため、本気で離婚をしたいのであれば別居をに踏み切って良いでしょう。
3.-(3) 裁判や調停を起こすケース
離婚をするときは慰謝料・財産分与・生活費等の請求ができます。もし、できるだけ有利な条件で離婚するために裁判や調停も辞さないのであれば、別居をした方が良いでしょう。
離婚裁判や離婚調停をしているにもかかわらず同居をしているのはやりにくい面があります。必ずしも、別居=裁判・調停ではありませんが、裁判や調停を起こす段階では別居している方が自然です。
4. 別居前に準備しておくべき3つのポイント
離婚を考えて別居をする前にとくに注意するべきポイントです。なお、離婚の進め方については下記記事もご覧ください。
(参考)離婚の手順と上手い進め方 弁護士がノウハウを惜しみなく公開
4.-(1) 別居後の生活環境を確保しておく
別居を強行する場合は、別居後の住居が必要となります。実家に戻ったり、実家の近くに家を借りるケースが多いですが、どのように生活するかを考えておきましょう。
とくに、子どもが居る場合は、子どもの親権を得るためには一緒に別居する必要があります。子どもが学校に通っているようであれば転校等の問題も生じます。
別居後は生活費を請求できますが、同居中の生活費よりも少なることもあります。このような点も踏まえて、別居後の生活をしっかり考えておきましょう。
4.-(2) 離婚を見越した証拠を集めておく
本格的に離婚をするときのための証拠収集も行っておきましょう。
例えば、不倫が原因で別居をするときは不倫の証拠があれば、有利に離婚を進めることができます。
もし本当に不倫があったとしても、証拠がなければ不倫を立証できず損をしてしまいます。可能な限り証拠を集めた上で別居に踏み切るべきです。
4.-(3) 相手方の収入・財産状況を把握する
別居中の生活費や離婚時の財産分与を請求するために相手方の収入・財産状況を把握しましょう。とくに以下のような情報があるのであればメモをしたり又は資料をコピーしてから別居する方が良いでしょう。
- 源泉徴収票や確定申告書
- 預貯金通帳
- 証券会社の口座情報
- 保険証券(解約返戻金の記載があるもの)
- ローン残高証明書や返済予定表
- 固定資産税の納税通知書
- 自動車の価格査定書
- 退職金見込額証明書
別居に悩んだら弁護士に相談する
本当に別居をするべきか、別居前の準備が十分か悩んだときは弁護士に相談することをおすすめします。
離婚・財産分与に強い弁護士に相談すれば、あなたの事案でどのタイミングで別居をするべきか、別居前にどのような準備をするべきか、別居後の生活の見通しについてアドバイスが得られます。
5. 別居後の生活はどうなる?
離婚したくて別居を考えても、別居後の生活が不安で踏み切れないという人も居るかもしれません。
もし、あなたが専業主婦で収入がなければ別居中の生活費について悩みや不安を抱えることが多いでしょう。これまでは夫の収入で生活していましたが、別居すれば働かない限り自分で生活費を稼ぐことはできません。
夫へ生活費を請求しても、「別居しているのに何で支払わないといけないんだ」などと言われてしまう可能性もあるでしょう。このため、別居したくてもなかなか決断できない専業主婦の方も多いのではないでしょうか。
5.-(1) 別居と生活費の関係
しかし、安心してください。たとえ別居したとしても生活費は請求できます。
実は夫婦間でそれぞれの収入や資産に応じて生活費を分担する責任があり、このことは別居中でも変わりません。生活費には家賃や食費、医療費など生活に必要となる費用のほか、子どもがいる場合は教育費用なども含まれます。
従って、別居中の生活費が必要であれば遠慮せずに請求しましょう。ただし、妻側に別居の原因があったり、婚姻がすでに形骸化していたりすると、生活費分担の義務が減免され、十分な額を支払ってもらえない可能性もあるので注意しなければなりません。
なお、別居中の生活費の相場や請求方法は下記記事をご覧ください。
5.-(2) 自分に別居原因がある場合は請求できない?
離婚や別居を考えることになった原因が自分にある場合でも生活費を請求できるのか不安になりますよね。
例えば、自分が不倫をしたせいで別居をするようなときでも生活費は貰えるのでしょうか?
このような場合は、生活費を貰えない又は減額される可能性があります。明確な基準があるわけではなく、実務的な扱いも分かれているところです。
よくある取扱いとしては、不倫をした妻が子どもを連れて別居したようなケースでは、子どもの養育費相当分だけの生活費を認める扱いがされています。
全く生活費を貰えないと別居中の生活は非常に苦しいものとなります。とくに子どもがいるようなケースでは、子どもの生活もありますので、まずは生活費を請求してみましょう。
5.-(3) 生活費についての合意書を作成する
別居することが決まったときに生活費に合意できるなら、まずは生活費についての合意書を作成しておくことをおすすめします。
離婚や別居を話し合うときというのは、残念ながら夫婦間の信頼関係が損なわれているケースが多いです。
口約束で生活費の分担や支払いを決めておくと、後々夫側が支払いを拒否したり金額を減らしたりして、トラブルに発展することも珍しくありません。
このような事態を避けるため、合意書は夫婦間だけで作成するのではなく、正式な公正証書という形で残したほうが良いでしょう。公正証書を作成するためには手続きが必要ですが、もし公正証書に定められた生活費が払わなければすぐに強制執行ができます。
6. まとめ:本気で離婚するために別居の法的意味や正しい方法を理解する
本気で離婚したいのであれば別居をすることは有力です。長期間の別居は離婚原因になりますし、財産分与を請求する時の基準になる等の意味があります。
もっとも、離婚を見据えて別居をするためにはしっかり準備をする必要があります。
また、あなたの事案で別居をどのようなタイミングでするかも問題です。しっかり、準備をした上で別居をするようにしましょう。
もし離婚をするための別居について不安や悩みがあるなら弁護士に相談することをおすすめします。別居を踏み切ると後戻りができないことも少なくありません。
弁護士の目からして準備が不十分なのに別居をすると大きな損をすることになりかねません。弁護士と相談しながら、きっちりタイミングを見極めて別居するようにしましょう。