財産分与を請求するときに財産分与の対象になる財産が分からないことがあります。
夫の稼ぎから預貯金があるはずなのにないと言われた、預金口座を教えてくれないときは財産分与の対象財産を調査する必要があります。
ここでは、財産分与をするために隠された財産を弁護士会照会や調査嘱託で調査する方法について紹介します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 財産分与を請求するときの調査方法
1.-(1) 財産分与は夫婦の両方ができる
財産分与とは、結婚生活において夫婦が共同で築いた財産を、離婚時に分配し合うことです。
どちらがどれだけ財産形成に貢献したかというのを具体的に割り出すのは難しいため、基本的に分与の割合は5対5とされています。
専業主婦は財産形成に直接貢献していないため財産分与は請求できないと思われるかもしれません。
たしかに、住宅や車、家財道具などは、夫が働いた給与で購入したかもしれません。しかし、夫が働くことができたのは妻が家事や育児を担ったからであり、妻の家事や育児があったからこそ形成できた財産です。
そのため、たとえ夫名義の財産であっても、それは夫婦共有の財産として財産分与の対象として請求できるのです。
1.-(2) 財産分与を請求するために対象財産の調査が必要な理由
しかし、財産分与はあくまで請求者側が財産分与の対象財産を明らかにする必要あがります。
隠された財産の存在を主張する側が、離婚の協議でその存在を立証できなければ、隠された財産は財産分与の対象として請求できません。
従って、財産分与を請求したいのであれば、財産調査を行う必要があるのです。
もちろん日頃から共有財産について正確に把握しておくことが賢明です。また、離婚を考えたときは、離婚準備として離婚を切り出す前や別居する前に財産を調査することをおすすめします。
(参考)離婚の手順と上手い進め方 弁護士がノウハウを惜しみなく公開
しかし、離婚の準備をしてから離婚できるケースばかりではありません。
離婚や別居を急ぐために財産分与のことが後回しになる場合もあります。財産分与は離婚後2年以内なら請求できますが、後から財産分与を請求したくても財産が分からないケースも多いでしょう。
(参考)離婚後も財産分与を請求できる場合と注意点【弁護士が解説】
財産分与の対象となる共有財産があるはずなのに、相手方が預金口座を教えてくれない又は財産がないと嘘をつかれたときは財産調査の必要があります。
ここでは離婚・財産分与に強い弁護士に依頼したときの財産調査の方法を解説します。
1.-(3) なぜ財産分与の対象財産の調査方法が問題になるか?
財産分与の対象である財産は夫婦だから簡単に分かると思うかもしれません。
しかし、相手方配偶者が財産を隠そうと思い、共有財産の情報を教えてくれなければ手掛かりがないため財産を調べることが難しくなります。
また、最近では個人情報の取扱いが厳しくなっているため、夫婦であろうとも相手方配偶者名義の預金口座の取引履歴が開示されることはありません。
そのため、財産分与の対象となる共有財産を調査・発見するための方法自体がノウハウとなり得るのです。
2. 財産分与と弁護士会照会
2.-(1) 弁護士会照会とは―離婚・財産分与に強い弁護士に依頼したときの調査手段
弁護士会照会とは、弁護士が訴訟や裁判所での手続を行うために弁護士法23条の2に基づいて必要な資料や証拠を収集し、調査することができる制度です。
弁護士会照会のメリットは裁判所を通じた調査手段ではない点です。
財産分与を請求する調停申立ての前から調停中まで、どのタイミングでも利用できる点がメリットといえます。
弁護士会照会は厳密には弁護士個人ではなく、所属する弁護士会が主体となって公私の団体や企業に照会を行い、照会先から回答を得ることになります。
もっとも、弁護士会照会は弁護士でないと使えないため、離婚・財産分与に強い弁護士に依頼したときに使える調査手段です。
2.-(2) 弁護士会照会による財産分与対象財産の調査
弁護士会照会は銀行に対して預貯金口座の情報を調査したり、携帯電話会社等に電話料金の引落口座を問い合わせることで隠し口座を発見するために使うことができます。
財産分与の対象となる財産毎にどのように弁護士会照会を使うかは以下の表でまとめています。
財産分与の対象 | 弁護士会照会による調査方法 |
預貯金 | 取引銀行名と支店名が特定できていれば、弁護士会照会によって口座の有無・取引履歴を調査 |
株式 | 証券会社に弁護士会照会をすることで保有株式数等を調査 |
退職金 | 勤務先に対して弁護士会照会をすることで給与や退職金を調査 |
不動産 | 不動産が所在する市町村に対して不動産の固定資産税台帳や名寄帳を調査 |
もっとも、弁護士会照会は日本全国を対象に調査できるわけではなく、金融機関の支店や市町村と言った単位で調査をする相手を特定する必要があります。
従って、財産分与の対象となる財産に関してある程度の手掛かりが必要なことには注意が必要です。
2.-(3) 財産分与における弁護士会照会の効力
弁護士会照会を受けた団体や企業は、一般的に回答義務を負うと解されています(最高裁平成28年10月18日判決)。
従って、財産分与の場面で隠された財産を調査する方法としては有効です。
もっとも、弁護士会照会の回答を拒否しても刑事罰があるわけではありません。最近は損害賠償による民事的なペナルティはありますが、強制力は弱いと言わざるを得ません。
とくに、弁護士会照会を拒否できる事由がなくても、個人の名誉や職業・通信の秘密などが損なわれることを懸念して回答拒否が許されることもあります。
そのため、弁護士会照会で回答を求めるためのテクニックが必要になってきます。
この点、離婚・財産分与に強い弁護士に相談すれば、財産分与の調査を有利に進めるアドバイスや思いも寄らない解決策を提案してくれることを期待できます。
2.-(4) 財産分与のために弁護士会照会を利用するときの費用
財産分与のために弁護士会照会を利用するときは弁護士会照会の費用がかかります。
弁護士会照会の費用は、弁護士会に対する手数料や郵便切手代がかかります。どのような調査をするかによりますが、1件当たり8000円から1万円程度の実費がかかります。
離婚・財産分与に強い弁護士に依頼していれば、弁護士会照会のために別途弁護士費用がかかることはないことが多いと思います。
逆に、弁護士会照会だけを依頼しようとしても、受任する弁護士はほとんどいません。
弁護士会照会の費用を抑えるためにも調査する財産が少ない方が良いです。
従って、、財産分与の弁護士会照会費用を抑えるためにも、財産分与の対象となる財産について可能な限り手掛かりを掴んでおくことをおすすめします。
3. 財産分与と調査嘱託
3.-(1) 調査嘱託とは―裁判所による財産分与の対象財産を調査手段
財産分与の問題では預貯金が対象財産の争点となるケースは少なくありません。
調査嘱託とは、裁判所から金融機関や会社に対して、預金口座の有無や残高などの情報開示を求める制度です。
弁護士会照会と異なり、調査嘱託は財産分与の請求を裁判所に申し立てた場合に利用できる調査手段です。
調査嘱託を利用することによって、相手名義の口座に関する取引情報について回答を得て隠された財産を突き止められる可能性が高まります。
3.-(2) 財産分与手続における調査嘱託の効力
弁護士会照会でも預貯金口座開示について名義人である相手方配偶者の同意が求められると、正面を切って隠し口座を突き止めることは困難です。
一般的に金融機関は警察や裁判所からの照会であれば、回答に応じる傾向が強いと言われています。弁護士会照会では回答を拒否されるケースでも、裁判所を通じた調査嘱託であれば回答を得られる可能性があります。
3.-(3) 調査嘱託を利用する場合の注意点
調査嘱託を利用するときは裁判所を通じた手続であることからいくつか注意点があります。
まず、財産分与の対象となる財産を探すために、手当たり次第に複数の金融機関などに対して一斉に行う預貯金の調査等は認められていません(探索的な調査と言われます。)。
従って、調査嘱託を行う対象を特定した上で、調査嘱託の必要性について裁判所に納得してもらう必要があります。
従って、財産分与のために調査嘱託を利用するときは、申立書において隠し財産があることが疑われるべき根拠や理由を詳細に記載することが重要です。この点は、離婚・財産分与に強い弁護士の腕の見せ所と言えます。
また、調査嘱託は一般的に財産分与の調停段階では認められにくいと言われています。財産分与の審判や訴訟段階になって初めて採用されるケースもあるようです。
この点は批判もありますが、裁判所は、調停について当事者同士の話し合いにより財産分与の問題の解決を図る手続であり、裁判所が調査嘱託のように介入することは望ましくないと考えているようです。
離婚・財産分与に強い弁護士に依頼していても、調査嘱託にネガティブである場合はこのような考慮がある可能性もあるのでご注意ください。
3.-(4) 財産分与のために調査嘱託を利用するときの費用
調査嘱託を利用する場合の費用については郵便切手代だけがかかります。
もっとも、財産分与の申立て自体に裁判所費用がかかることはもちろんです。
4. 財産分与で弁護士会照会や調査嘱託を利用する前に
弁護士会照会も調査嘱託も万能の効力があるわけではありません。まったく手掛かりがない事例等では使えません。
従って、財産分与を請求するために弁護士会照会や調査嘱託を利用する前に、どのような手口で財産隠しがされるかや調査の手掛かりをどのように手に入れるべきかを知っておく必要があります。
4.-(1) 現金化による財産隠しの対応策
財産隠しの手口として多いのは、現金を相手の目につきにくい場所に保管したり移転したりするケースです。めったに開けない引き出しの奥に高額なへそくりが眠っていることや、最近では複数の電子マネーに分散させる裏わざも珍しくありません。
4.-(2) 有価証券や不動産の財産隠しの対応策
また、有価証券や貴金属を保有している場合も、貸金庫や自分の実家など相手の目の届かないところに隠していることが考えられます。
存在が目立つ不動産の場合は、登記名義人を自分の肉親に変更して実態をカムフラージュしたり、売却して得たお金を縁もゆかりもない地方銀行の口座に移したりする巧妙な手口が見られます。
4.-(3) 事前に財産分与の対象となる共有財産をリストアップする
財産分与で泣き寝入りしないためには、このような手口に対抗していくことが大事ですが、隠される前に対策を取ることも重要です。
予め共有財産をリストアップしておくことをおすすめします。なお、財産分与の対象となる共有財産については以下の記事を参考にしてください。
(参考)財産分与の対象となる共有財産とは
さらに、相手の預金通帳や源泉徴収票など、財産に関与する書類はすべてコピーをとっておくことも有効でしょう。
隠し口座があった場合は、金融機関が定期的に送ってくるダイレクトメールなどから足取りがつかめることもあるため、自宅に届く郵便物は欠かさずチェックすることも防衛策になります。
もし相手にまとまった財産があるとわかったときには、仮差押えという手段もあります。
仮差押えとは、裁判所の決定によって銀行口座を凍結したり不動産の登記変更を不可能にして売却を防いだりするなど、相手の財産に一定の制約を加える手段です。
5. 財産分与の対象となる財産を弁護士会照会と調査嘱託で探す
離婚を考えたときの正しい手順は、離婚を切り出したり又は別居する前に財産分与のために財産調査を行うことです。
(参考)離婚の手順と上手い進め方 弁護士がノウハウを惜しみなく公開
しかし、離婚や別居を急ぐ必要があり、財産調査が十分できないケースもあるでしょう。離婚における財産分与は法律で認められている権利です。
離婚後であっても財産分与を請求することは可能ですので諦める必要はありません。
(参考)離婚後も財産分与を請求できる場合と注意点【弁護士が解説】
もっとも財産分与を有利に進めるためには、もらえるはずの財産をすべて明らかにすることが必要です。
離婚や別居をしたために相手方配偶者が財産を隠されたときは弁護士会照会や調査嘱託が有効な手段です。
もし相手方配偶者に財産を隠されても、弁護士会照会や調査嘱託を使えば見つけることができる可能性があるため、粘り強く調査を依頼していきましょう。