財産分与は離婚時に夫婦の財産を半分ずつ折半するものであり、離婚でお金が大きく動くため重要な手続きです。
財産分与は約15%の離婚で1000万円超にも及び、数千万円から数億円になることもあります。
離婚を急いで財産分与をきちんと請求しないと大きく損をしかねません。
また、ローンが残っている持ち家がある離婚では財産分与は様々な問題が生じます。
離婚で最もお金が動く財産分与で損をしないために、本記事では財産分与で知っておくべき項目を網羅的に説明しました。離婚の財産分与についてはまず本記事をお読みください。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 財産分与とは
1.-(1) 財産分与=離婚時に財産を折半
財産分与とは、離婚をするときに夫婦の財産を原則として半分ずつ折半することを言います。
夫婦が離婚するまでに築き上げた財産を半分にするため財産分与は離婚におけるお金の問題でもとくに重要です。
1.-(2) 財産分与の種類
財産分与は大きく以下の3つの種類があると言われています。
- 清算的財産分与
- 扶養的財産分与
- 慰謝料的財産分与
しかし、財産分与の種類は、離婚をしたいあなたにはさほど意味はありません。財産分与には3つの種類があるのだなぐらいに思っておけば問題ないでしょう。
1.-(3) 約70%の離婚では財産分与で損をしている可能性
財産分与は大きなお金の問題ですが、離婚したいと急ぐあまり財産分与をきちんと決めずに離婚するケースも少なくありません。
裁判所のデータによれば、離婚事件のうち財産分与の取り決めがされたものは約30%程度です。しかし、財産分与が取り決めがされた事案では大雑把に約500万円程度がなされています。
つまり、約70%の離婚事件では500万円もの財産分与を請求できる可能性があったのに、離婚したいと急ぐため財産分与で大きく損をしている可能性があります。
財産分与を知らないと大きな損をする可能性があるため、きちんと財産分与の知識を持つことが重要です。
2. 財産分与の相場 ~なぜ離婚で財産分与が重要なのか~
財産分与は離婚のお金で最も重要であることを知るために財産分与の相場を見てみましょう。
2.-(1) 財産分与の相場は約500万円程度
財産分与の相場とは離婚時にきちんと財産分与を請求するとどの程度の金額を得ることができるのかです。
財産分与は、持ち家があるかやどの程度の預貯金があるかで個別事案で異なります。
しかし、裁判所が公表しているデータによれば、財産分与の相場としては少なくとも約500万円程度が大雑把な中間値と言えます。
また、1000万円を超える財産分与がされた事案が約14.6%もあります。
2.-(2) 財産分与に関する裁判所のデータ
平成29年度司法統計「3 家事編」第27表によれば、離婚事件のうち財産分与の取り決めがされたものが7,322件あります。そのうち総額が決まらない又は算定不能なものを除くと財産分与の金額について以下の通り5,727件のデータがあります。
財産分与に関する裁判所のデータをまとめると以下の通りとなります。
財産分与の金額 | 件数 |
100万円以下 | 1,830件 |
200万円以下 | 895件 |
400万円以下 | 870件 |
600万円以下 | 556件 |
1000万円以下 | 739件 |
2000万円以下 | 566件 |
2000万円超 | 271件 |
これらのデータによれば、結婚期間が短い事案のように100万円以下の財産分与もある一方で、数百万円程度の財産分与は珍しくないことが分かります。
また、1000万円超の財産分与も合計で837件あり、全体の約14.6%の事案で財産分与が1000万円を超えていることが分かります。
2.-(3) 結婚期間が長いと財産分与も高額に
また、財産分与の相場は結婚期間に応じても大きく異なります。財産分与は夫婦が築き上げた財産を半分ずつ折半するものであるため、結婚期間がないと財産分与の対象となる財産も高額になるからです。
もっとも、財産分与は夫婦の財産状況という個別事情によって大きくことなります。あなたの事案で適正な財産分与を知りたいのであれば弁護士の無料相談をご利用ください。
3. 財産分与の計算方法~簡単な4つのSTEP~
離婚したいと思ったとき、あなたの事案で財産分与がいくらになるかを把握することは重要です。
そこで、財産分与の計算方法を4つのSTEPに分けて説明し、各STEPでポイントになる点を解説します。
3.-(1) STEP①:財産分与の対象を確定する
夫婦の財産のうちどのようなものが財産分与の対象になるかを計算することが最初のSTEPです。とくに親から相続した持ち家があるときや、住宅ローン等をどう考慮するかはポイントになる点です。
3.-(2) STEP②:財産分与の割合を決定する
次に財産分与の割合を決定します。原則として財産分与の割合は半分ずつの折半ですが、特殊な事情があるときは財産分与の割合が異なるケースもあります。
3.-(3) STEP③:財産分与の分配方法を定める
どの財産をどのように分配するかという財産分与の分配方法を決定します。財産分与の対象が預貯金だけであれば単純ですが、不動産(持ち家)がある場合には様々な財産分与の方法が考えられます。
3.-(4) STEP④:財産分与の請求
最後に財産分与の請求に関して説明します。離婚後に財産分与はできるのかや、財産分与の期間制限(時効)等の注意点があります。
ここからは各STEPにおいて財産分与で問題となるポイントについて解説します。
4. 財産分与の対象
財産分与の対象となるのは、夫婦が結婚生活で築いた財産(共有財産)です。他方で、結婚前から所有する財産や結婚期間中で取得した財産(特有財産)は財産分与の対象とならないとされています。
4.-(1) 財産分与の対象になる共有財産の種類
財産分与の対象となる共有財産には一切の財産が含まれます。
- 現金・預貯金
- 株式・投資信託
- 不動産(持ち家)
- 自動車
- 保険の解約返戻金
- 退職金や年金
- 負債(住宅ローンなど)
現金・預貯金や持ち家等のように分かりやすい財産だけでなく、保険の解約返戻金や退職金等も共有財産として財産分与の対象となります。
なお、離婚前に別居をしているケースでは、財産分与の対象となる財産は別居時点で算定されるのが一般的な実務と言われています。
財産分与の観点から別居時点は重要になるので注意が必要です。
4.-(2) 離婚時に持ち家がある場合の財産分与
離婚をするときに持ち家がある場合はとくに財産分与が重要となります。なぜなら持ち家の財産分与では様々な点が問題になるからです。
- 持ち家はどの程度の価値があるのか
- 住宅ローンをどのように扱うか
- 持ち家に誰が住むか売却するか
- 持ち家の購入時に親から頭金を援助して貰っている場合はどうするか
持ち家を購入したばかりならともかく、持ち家を購入して10年以上が経過してから離婚をするときは持ち家は財産分与において重要なポイントになります。従って、離婚をするときに持ち家がある場合は財産分与について弁護士に相談する方が良いでしょう。
(参考)離婚や財産分与について早めに弁護士に依頼するべき事案
4.-(3) 財産分与の対象にならない特有財産
財産分与の対象となるのは、夫婦が「結婚生活で築いた財産」です。従って、夫婦の片方が結婚前から所有していた財産は財産分与の対象となりません。財産分与の対象とならない財産を特有財産と言います。
しかし、実務上は特有財産は非常に狭く解されています。例えば、夫婦が独身前に貯めた現金や貯金でも特有財産とならないケースが少なくありません。
従って、財産分与の対象とならない特有財産としてよく考えられるものとしては以下のようなものに限定されます。
- 独身時代に夫婦の片方が購入した不動産
- 夫婦の片方が親から相続した財産
法律相談にお越しになる方でもインターネットの情報を読み間違えて、ご自身の離婚事案では財産分与の対象になる財産はないと誤解しておられる方は少なくありません。
離婚したいと思ったときに何かしらの財産分与があるケースがほとんどですので、財産分与を請求できないと諦めずに弁護士にご相談することをおすすめします。
4.-(4) 財産分与と借金(住宅ローン)の問題
夫婦生活でできた借金も財産分与の対象となります。
夫婦で借金をしていないと思われる方も多いですが、持ち家を購入したときの住宅ローンや教育ローンも借金ですので注意が必要です。
住宅ローンや教育ローンがある場合はプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残額を分配することになります。
離婚をするときに住宅ローンを組んで購入した持ち家があるときは、どのように持ち家と住宅ローンを扱うかは財産分与の方法として問題になる点です。
なお、パチンコ等のギャンブルやブランド品購入等の浪費といった夫婦の片方が夫婦生活と関係なく個人的に行った借金については財産分与の対象とならないと考えられます。
5. 財産分与の割合
財産分与の割合は、夫婦で半分ずつ折半するのが原則です。
5.-(1) 財産形成に対する貢献度の実務的な扱い
財産分与の割合は、考え方としては財産形成への貢献度だと言われていますが、実務上は半分ずつ折半するのが原則とされます。
例えば、夫がサラリーマンであり、妻が専業主婦の場合、お金を稼いでいるのは夫だけだと思われるかもしれません。しかし、実務上は夫が働けるのは妻が家庭を支えたためだと考えて、財産形成に対する貢献度は対等であり、財産分与も半分ずつ折半することになります。
5.-(2) 夫婦の片方が会社経営者や医者であるときの財産分与は要注意
もっとも、財産分与の割合はあくまで財産形成に対する貢献度に応じます。
従って、適切に対応をしないと半分すつの財産分与よりも有利・不利になる場合があります。
とくに夫婦の片方が会社経営者や医者であるような場合は、夫婦の片方による特殊な才覚や努力によって多額の財産を得られたと考えられるため、財産分与の割合が修正されるケースがあります。
例えば、福岡高裁昭和44年12月24日判決は、夫が開業医であるため年収が1億円を超えており資産も1億円超のケースについて、妻に2000万円しか財産分与を認めませんでした(財産分与の割合1/5未満)。
これは収入に対する夫の個人的な才覚を認めた事案といえます。
6. 財産分与の方法
財産分与の方法は、離婚手続によって異なります。とくに以下のようなケースごとで財産分与の方法は異なります。
- 話し合いによって離婚をするケース
- 裁判手続を利用して離婚をするケース
- 離婚をした後に財産分与を請求するケース
6.-(1) 話し合いによって離婚をするケース
話し合いによって離婚をするケースでは、当事者同士が納得してれば柔軟な財産分与を行うことができます。
財産分与の方法が決定すれば、離婚協議書を作成して、どのように財産分与するかをきちんと定めることが重要です。
もっとも、話し合いによる離婚で財産分与を行うときは、法律を誤解して不利な条件で財産分与に応じるリスクがあります。また、せっかく財産分与の方法を決めても離婚協議書できちんと定められないと損をします。このような点に注意する必要があります。
6.-(2) 裁判手続を利用して離婚をするケース
離婚調停・離婚審判・離婚訴訟という裁判手続を利用して離婚をするケースでは、財産分与の方法も各手続において決定されます。
第三者が関与するため、ある程度適切な財産分与の方法が決定されることが期待できます。
もっとも、きちんと自分の考えを主張し、必要に応じて証拠を提出しなければ、主張・立証した事実はないものとして手続が進むリスクがある点は注意が必要でうs。
6.-(3) 離婚後に財産分与を請求するケース
離婚後に財産分与を請求する場合は、夫婦関係が完全に終了していることから当事者同士の話し合いは難しいことが少なくありません。
従って、裁判所の手続を利用して財産分与を請求することになります。もっとも、離婚後の財産分与は主張立証が難しく、離婚成立から2年以内という期間制限があります。
従って、離婚後に財産分与を請求する場合は早めに弁護士に依頼することをおすすめします。
7. 財産分与の請求(期間制限)
7.-(1) 離婚と合わせて財産分与を決める場合
財産分与の請求は、離婚と同時に行うことが一般的です。話し合いによって離婚をする場合は離婚協議書において、裁判手続を利用して離婚をする場合は裁判手続において離婚と合わせて財産分与が定められます。
7.-(2) 離婚後の財産分与:離婚成立から2年以内の期間制限
他方で、離婚後に財産分与をするときは離婚成立から2年以内という期間制限があるので注意が必要です。
もっとも、離婚後も財産分与を請求できるからと言って、離婚したいと急ぐあまり財産分与の取り決めをせずに離婚することはおすすめできません。
離婚をすると相手方が居場所不明になったり、財産がどこにあるかを調査することが難しくなります。また、離婚条件についての交渉材料がなくなるため、財産分与の交渉で不利な条件になるリスクがあります。
8. 財産分与で損をしないために
財産分与は離婚したいと考えたときに重要な問題です。
財産分与の相場は約500万円程度であり、約14.6%の事案では1000万円超の財産分与がなされています。
離婚時のお金の問題としては財産分与はまさしく桁違いに高額です。
離婚したいと急ぐあまりに財産分与を請求しないと大きな損をする可能性があります。また、離婚時に持ち家や住宅ローンがあるときは、財産分与をどのように行うかが問題となりやすいです。
財産分与で損をしないためには、適切な法律知識に基づいてきちんと財産分与の請求を行うことが重要です。財産分与については何か不安な点があれば、離婚や財産分与に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。