長年、結婚生活に耐えてきたものの子どもが成人したことをきっかけに離婚を考える方も少なくありません。長年の夫婦生活を経た後に離婚をする熟年離婚のケースでは、離婚後に生活が全く変わります。
熟年離婚で後悔しないためには、離婚後の生活設計を立てることがポイントです。
とくに熟年離婚は財産分与をきちんと請求することが離婚後の経済的自立を達成するために重要です。
この記事では熟年離婚を考えている方に向けて、熟年離婚における財産分与に特有な点を解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
1. 熟年離婚の特徴
1.-(1) 熟年離婚とは
熟年離婚とは長年の夫婦生活があったにもかかわらず離婚をすることです。とくに定年の前後において、奥様からご主人に対して離婚したいと告げるケースが多いようです。
結婚期間が何年以上であれば熟年離婚と呼ぶかの決まりはないですが、20年以上の結婚生活があるような場合を想定して熟年離婚と考えることが多いです。
例えば、厚生労働省「離婚に関する統計」では同居期間20年以上の離婚は上昇傾向にあり直近では16.5%程度だとされています。つまり、約5~6組に1組は熟年離婚をしているのが現状だと考えられます。
1.-(2) 子どもの成人:養育費が問題にならない
熟年離婚の理由は様々ですが、大きな理由の1つが「子どもが成人したので自由に生きたい」というものです。
従って、熟年離婚のケースでは子どもが成人しており養育費が問題にならないことが多いです。未成年の子どもが居れば離婚後も養育費を貰うことができます。
しかし、熟年離婚の場合は養育費を貰えないため、しっかりと離婚後の生活設計を考える必要があります。
1.-(3) 財産分与が高額化する傾向
また、高額な財産分与を請求できるケースが多いことも熟年離婚の特徴です。
財産分与は夫婦で築いた共有財産を配分するものですが、夫婦生活が長ければ共有財産も多額になります。
とくに持ち家があるケースや退職金の財産分与が請求できるケースが多いでしょう。また、熟年離婚だと年金分割も問題になります。
従って、以下では熟年離婚の財産分与で問題となる持ち家、退職金、年金分割について説明します。
2. 長年過ごした持ち家をどうするか?
熟年離婚をするときに一番に考えるべきは離婚後の生活をどこで過ごすかです。とくに結婚生活中に持ち家を購入したときは、長年住み慣れた持ち家をどうするかが問題となります。
2.-(1) 持ち家に住み続けるか又は処分をするか
離婚をするときに持ち家がある場合はどのように扱うかが問題となります。
しかし、熟年離婚では持ち家を処分するケースが多いように思われます。住宅ローンを完済しており売却に支障がないことや、どちらかが1人で住み続けるには持ち家が大きすぎること等の背景があります。
2.-(2) 持ち家を処分する場合の財産分与
持ち家を処分する場合は売却代金から住宅ローンを控除した残額を2人で分けることになります。
なお、あなたが専業主婦であるとしても、長年の家事・育児で家庭を支えたためにご主人が働いて共有財産を築いたと評価できます。そのため、専業主婦であっても財産分与の割合は1/2ずつとなるのでご安心ください。
(参考)財産分与の割合(専業主婦でも半分の財産分与を請求できる理由)
2.-(3) どちらかが持ち家に住み続ける場合
どちらかが持ち家に住み続ける場合は、原則として持ち家の時価から住宅ローンを控除した残額について、持ち家を取得する側が他方に支払うことになります。
つまり、半分ずつにするべき持ち家を片方が取得する代わりに、お金を支払うことになります(遺産分割時の代償分割と同じ方法)。
もっとも、夫名義の住宅ローンがあるにも関わらず、妻が持ち家に住み続ける場合は住宅ローンの扱いが問題となります。また、不動産の価値を住宅ローンが上回るオーバーローンの場合は難しい問題が生じます。
(参考)離婚時に持ち家があるときのポイント ケース別で分かりやすく解説
熟年離婚の事案では、子どもが成人して家を出ていることが多く、ファミリータイプの持ち家は不必要に大きいケースが多いでしょう。一般的には、持ち家は売却した方がスムーズなことが多いようです。
3. 退職金も財産分与の対象となるか?
どのタイミングで熟年離婚をするかは様々です。もっとも、退職金の財産分与請求の観点では熟年離婚が定年前後のいずれかで法律関係が変わってきます。
3.-(1) 定年後の熟年離婚のケース
定年からしばらく経ってから熟年離婚をするケースは少なくありません。定年前はご主人が働いているため別々の生活リズムで過ごせていたのに対し、定年後は夫婦がずっと一緒にいることに耐えられなくて熟年離婚に至ることがあるためです。
定年後に熟年離婚をするケースでは、既に退職金が支払われているため問題なく財産分与を請求することができます。支払済みの退職金は現金か預貯金になっているため、通常の現金・預貯金の財産分与と同様に考えられます。
3.-(2) 定年前における将来の退職金の扱い
他方で、定年前に熟年離婚をするケースでは、退職金は将来支払われるものにすぎないので財産分与の対象となるかが問題となります。
この点ですが、将来支払われる退職金を取得できる可能性が高ければ財産分与の対象となると考えられています。
熟年離婚のケースであれば、長年会社に勤務しており定年も近いこと等から会社に退職金規程があれば財産分与を請求できることが多いでしょう。
3.-(3) 勤務期間と結婚期間の割合で配分する
もっとも、退職金は全額が財産分与の対象となるわけではなく、勤務期間のうち結婚期間に相当する部分のみを請求する扱いが多いです。
例えば、勤務期間30年で1500万円の退職金が貰えるとして、そのうち20年が結婚期間であれば、財産分与の対象となるのは1500万円×(20年÷30年)=1000万円です。
もっとも、どの程度の退職金が財産分与の対象になるか決まりはありません。
実は、どの程度の退職金を請求できるかは裁判例でも分かれており、ケースバイケースであるため弁護士の腕の見せ所と言えます。
退職金を少しでも獲得するためには財産分与に強い弁護士に相談することをおすすめします。
4. 熟年離婚と年金分割について
結婚生活期間に対応する年金についても請求することができます。これは厳密には財産分与ではなく、法律で定められた年金分割制度というものです。
4.-(1) 年金分割とは
年金分割とは離婚するときに、合意又は裁判によって按分割合を決めて、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を分割する制度です。
年金分割を請求すれば、将来貰える年金額が増えることになります。熟年離婚の場合は年金が老後の生活原資となるため、しっかり年金分割を請求することが重要です。
4.-(2) 年金分割の注意点
もっとも、年金分割は厚生年金のみを対象とするものです。例えば、長年自営業者として働いており、厚生年金の加入記録がない場合は請求ができません。
もっとも、中小企業でも法人化して社長である場合は厚生年金に加入している可能性があるため年金分割が請求できることもあります。
また、企業が私的に定めている企業年金も年金分割制度の対象ではありません。もっとも、企業年金を貰えることは財産分与の中で考慮される可能性はあります。但し、この点に関しては裁判所内部でも扱いが決まっておらず、具体的事情に即して判断されることになります。
なお、年金分割は請求期限があり、原則として離婚等をした日の翌日から2年以内に請求する必要があります。
年金分割をしないまま熟年離婚をしたケースでは、早めに年金分割を請求するための手続を行いましょう。
5. 熟年離婚はしっかり財産分与を請求する
熟年離婚のケースでは、その後に働きだすことが難しく、老後の生活資金は財産分与と年金だけになります。そのため、熟年離婚をするケースでは、できるだけ多くの財産分与を獲得することがポイントになります。
財産分与でとくに問題になるのが持ち家・退職金です。持ち家や退職金はある程度の扱いは決まっていますが、細かい点になると具体的事情によって有利にも不利にもなります。
従って、もし不安があれば早めに弁護士に相談するべきでしょう。
また、年金分割も問題となります。年金分割は原則として離婚から2年以内に請求する必要があるのでご注意ください。
企業年金があるような場合は年金分割の対象ではないものの、財産分与において考慮される可能性があります。この点は裁判例でも扱いが決まっていないため、しっかり主張していく必要があるでしょう。
熟年離婚について不安や悩みがあれば弁護士に相談することをおすすめします。もし、弁護士に相談しないまま離婚をしてしまうと、本来貰えるはずのお金が貰えず損をする可能性があります。
熟年離婚を考えた段階で一度ご相談ください。なお、弁護士の選び方については下記記事もご覧ください。